【試写レビュー】映画『墓泥棒と失われた女神』ギリシャ神話をモチーフにした、キメラ《幻想》を追い求める墓泥棒たちの数奇な物語

© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Production s, Arte France Cinéma

映画『墓泥棒と失われた女神』が 2024年7月19日(金) より全国順次公開となります。本作は、『幸福なラザロ』『夏をゆく人々』などで高く評価されるイタリアのアリーチェ・ロルバケルが監督・脚本を手がける最新作。ギリシャ神話の悲劇のラブストーリーをモチーフにしたキメラ《幻想》を追い求める墓泥棒たちの数奇な物語です。

■STORY■
80年代、イタリア・トスカーナ地方の田舎町。考古学愛好家のイギリス人・アーサーは、紀元前に繁栄した古代エトルリア人の墓をなぜか発見できる特殊能力を持っている。墓泥棒の仲間たちと掘り出した埋葬品を売りさばいては日銭を稼ぐ日々。そんなアーサーにはもうひとつ探しているものがある。それは行方知れずの恋人・ベニアミーナだ。ベニアミーナの母フローラもアーサーが彼女を見つけてくれることを期待している。しかし彼女の失踪には何やら事情があるようだ…。ある日、稀少な価値を持つ美しい女神像を発見したことで、闇のアート市場をも巻き込んだ騒動に発展していく…。

夢、富、忘れられない愛する人ーー 墓泥棒たちが追い求めるものは何なのか。

人の果てなき探求を描いた数奇な物語は、かつて墓泥棒が多発したイタリアならではの着想から生まれました。最愛の人の影を追う主人公アーサーの姿は、亡くなった妻を生き返らせるために冥界に赴いたギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」の悲劇のラブストーリーを想起させ、〈生と死〉〈空想と現実〉〈神話と現代〉の境目を自由自在に飛翔します。

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主人公アーサーを演じるのは、新世代の英国若手俳優を代表するひとりとしていま間違いなく名前が挙がるジョシュ・オコナー。今年日本公開の『チャレンジャーズ』では、ゼンデイヤ演じる主人公らと三角関係になる役柄を演じ話題沸騰となりました。本作の主演を務めるきっかけとなったのは、『幸福なラザロ』を観て感銘を受けたオコナーがロルヴァケル監督作品への出演を熱望し手紙を送ったこと。本作では、墓泥棒のリーダーであり、“外国人”のアーサーを見事に快演し、どこか哀愁を帯びながらも力強く、時にやさしい眼差しから目が離せません。

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本作をより楽しむための 主な“キーワード”

キメラ

①幻想、架空の夢
②同一個体内に異なった遺伝的背景を持つ細胞が混じっていること、またはそのような状態の個体のことを指す。頭はライオン、体はヤギ、尾はヘビで口から火を吐くという、ギリシャ神話の想像上の怪獣の名に由来する。
③寄り合いの団体所帯や由来が異なる複数から構成される物。

イタリアのトンバローリ(墓荒らし)

「ローマの地下は掘れば遺跡」と言われるように、ヨーロッパにおける古代文明の中心地であったイタリアでは 今もなお遺跡の発掘調査が続き、貴重な文化財が次々と発見されています。遺跡を許可なく発掘し、出土品を独自のルートで金銭に換える者たちをイタリアではトンバローリ(墓荒らし)と呼びます。

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エトルリア

紀元前8世紀から同3世紀頃にかけて、現在のトスカーナ州にあたる地域を核にイタリア中央部で繁栄した高度な文明で、12の都市による宗教的な同盟からなる都市国家群。紀元前3世紀頃、ローマ人の侵略によって同化され、消滅しました。エトルリア人の貴族が残した墳墓の多くは、熟練の技術によって地下に造られた大規模な空間で、住宅の間取りを再現した配置や様々な生活用品を模った装飾がみられます。エトルリア人にとって来世は地下にあり、そこでは現世と同様の生活が続くと考えられていたとされるのが定説。本作の撮影は、エトルリア文明があった地域周辺で行われました。

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【音楽の話】こだわり抜いた劇中歌の選曲に注目

本映画は、〈生と死〉〈空想と現実〉〈神話と現代〉といったコントラストが際立つ作品ですが、背景を彩る数々の音楽もまた必要不可欠な役割を果たしています。なかでも、クラフトワークの『Spacelab』を採用した場面では、物語のなかに唐突に現れるSF的なテクノポップサウンドがあまりに新鮮で、衝撃を受けました。このどこか不安定なアプローチこそが、本作のキーワードであるキメラ《幻想》の感覚を強めているようにも思います。

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また、本作はギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」を想起させる物語です。これまで、このギリシャ神話の悲劇をテーマとして、絵画、彫刻、詩、小説、演劇、音楽、オペラなどで様々な作品が作られました。 劇中では、神話にインスピレーションを受けたクラウディオ・モンテヴェルディ作曲のオペラ『オルフェオ』の楽曲が度々使用されています。

さらに、劇中に登場する主人公アーサーを歌った『吟遊詩人の歌』にも注目。紙芝居が始まるかのようにトライアングルの音色が響き渡ると、哀愁漂う歌が始まります。歌のなかでは アーサー、そして彼と行動を共にする墓泥棒のチームが時折追いかけてくる警察から逃げ隠れしたり、慌ただしく移動する様子などが詳細に描かれており、遊び心あふれる場面を作り出しています。 

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文/ Maika (Webサイト『映画とわたし』)

『墓泥棒と失われた女神』作品詳細

7月19日(金)より
テアトル梅田/シネマート心斎橋
アップリンク京都/シネ・リーブル神戸

ほか 全国順次公開

監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル(『幸福なラザロ』『夏をゆく人々』)
出演:ジョシュ・オコナー、イザベラ・ロッセリーニ、アルバ・ロルヴァケル、カロル・ドゥアルテ、ヴィンチェンツォ・ネモラート
2023年/イタリア・フランス・スイス
原題::La Chimera
配給:ビターズ・エンド

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この記事を書いた人

【取材、撮影、記事作成など、Webサイト『映画とわたし』に関わる全てのことを担当】

兵庫県神戸市出身、関西大学卒業。大学在学中にシンガーとして音楽活動を開始。CDリリースや数々のアーティストのバックコーラスを経て、ディズニー映画『美女と野獣』の日本語版デュエットソングDAMガイドボーカル(第一興商)を務める。卒業後は、関西のマスメディアで業務に携わり、2019年には神戸のラジオブースでパーソナリティとして活動。
2022年には、阪神百貨店で開催されたバレンタイン催事のイメージソング『Strawberry』を制作。Webメディア『映画とわたし』の運営を中心に、記事掲載や写真・動画撮影、音楽を通してモノやコトの魅力を発信中。