【試写レビュー】映画『風の奏の君へ』ロケ地・岡山県美作市の‟燃えるように美しい緑”と、さわやかな音楽が織りなす映像の世界

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

映画『風の奏の君へ』が 2024年6月7日(金) に劇場公開されます。本作は、岡山県美作出身の作家・あさのあつこ氏の『透き通った風が吹いて』を原案に、美作地域で少年時代を過ごした大谷監督が映画化。岡山の情緒あふれる風景の中で綴られる感動のラブストーリーです。

■STORY■
岡山県・美作の緑豊かな山々のふもと。古き良き趣を残す町並みに温泉を携え、お茶処でもあるこの地で、浪人の渓哉は無気力な日々を過ごしていた。一方、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ兄の淳也は、日本茶の魅力で町を盛り上げようと尽力していた。ある日、ピアニストの里香がコンサートツアーでやって来ることを知った渓哉。会場の客席で渓哉が見守る中、舞台上で倒れてしまった里香。療養を兼ねてしばらく美作に滞在することになった里香を、渓哉は自宅の空き部屋に招待する。自然の優しさに囲まれて曲作りに励む里香に、ほのかな恋心を募らせる渓哉。しかし里香にはどうしてもこの場所に来なければならない理由があった……。

【街ぐるみの映画づくり】自然が聴かせてくれる音

まるで画面越しに“お茶の香り”が漂うかのような、“緑”の映像美に感動

本作のはじまりは、2011年から 2016年まで 岡山県・美作市で開催されていた「美作市映像大賞」。この映像コンテストで審査員をつとめていたのが、大谷健太郎監督と小説家のあさのあつこ氏でした。お二人は共に美作市出身であり、コンテストの応募映像を通して市の風景や人々がおさめられた数々の作品に触れて心が大いに揺さぶられ、美作市発の映画プロジェクトが始動しました。

撮影は、茶葉の新芽の緑が最も鮮やかな2022年4~5月、美作市を中心に全編岡山で行われたことでも話題に。美作市では、大谷監督とあさの氏の母校である県立林野高校や大原駅(智頭急行智頭線)などで撮影されました。なかでも、「天空の茶畑」の名で親しまれる標高約300mの茶畑で撮影されたシーンでは、本映画を語る上で欠かせない‟燃えるように美しい緑”をじっくりと堪能できます。

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

美作市は、岡山県内有数のお茶の産地です。代々受け継がれてきた茶葉屋や茶畑、製茶工場などを舞台に、お茶を通して人と人とがつながる数々のシーンも本作の魅力の一つ。まるで、さわやかで渋みもコクもある美作の“お茶の香り”が漂うかのような、リアルで深みのある映像が画面いっぱいに広がります。

切ない三角関係、それぞれの人生に吹く風

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

とある理由で美作を訪れ、自然の優しさに囲まれて曲作りに励むピアニストの里香役は、ミュージシャンでもある自身のキャリアを投じて劇中曲の作曲を手がけた松下奈緒さん。里香が兄の元恋人であると知りながら惹かれていくのを止められない弟・渓哉役は、大河ドラマ「どうする家康」への出演が記憶に新しい杉野遥亮さん。家業の茶葉屋「まなか屋」を継ぎ日本茶の魅力で町を盛り上げようと尽力する兄・淳也は、本作で映画デビューを果たした flumpoolのボーカル 山村隆太さんが演じました。三者三様の視点でそれぞれの葛藤を丁寧に描き、たしかな演技力とさわやかな音楽で切ない三角関係や心の距離が見事に表現されています。

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

本作の見せ場の一つである“茶香服”のシーンについて、大谷監督は「渓哉が自分を見ていない里香に気づいたとき、まさにそれだよねという顔を杉野(遥亮)君がしてくれているんです。劇中ではほんの一瞬で成長してしまう若者の触れ幅を見せたかったのですが、少年から大人になっていく表情のグラデーションが見事でした。」と振り返ります。また、製茶工場で淳也が渓哉に心情を吐露するシーンでは「(山村隆太さんに)ここまで隠し通したことを最後に全て吐き出してくださいとだけ伝えました。」と、敢えて演出らしいことをせずに山村さんに場面を委ねたエピソードを披露。クライマックスに向けて、山村さんが魅せるアクションにも注目です。

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

物語は、里香の帽子を飛ばす《風》で始まり、旅立つ渓哉を桜の花吹雪で見送る《風》で終わります。「誰しも人生を決定的に形作るような出会いがあって、いつかそこに立ち返るときが必ず来ます。自分が育った土地の風土を振り返りながら、そのかけがえのない瞬間を、この映画で体感して欲しいなと思います。」と、大谷監督。そこには、故郷の原風景に生と死を見つめる監督の思いが込められています。

【音楽の話】劇中歌と、主題歌に注目!

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

ヒロインの里香役を演じた松下奈緒さんは、劇中曲「小さな奇跡 〜Un petit miracle〜」(作曲:松下奈緒 編曲:河野伸 (ソニー・ミュージックレーベルズ) )と「風の奏の君へ」(作曲:松下奈緒 編曲:河野伸 (ソニー・ミュージックレーベルズ) )の作曲を手がけるほか、演奏シーンでは見事なピアノ演奏を披露しています。大和田廣樹プロデューサーは、松下さんのとあるエピソードに強く感銘を受けて、《里香を演じられるのは、松下奈緒しかいない》と確信したのだそう。それは、松下さんがかつてテレビ番組の取材でモナコを訪れた際に、女優からモナコ公妃に転身したグレース・ケリーの足取りにインスピレーションを受けて彼女の人生をモチーフに作った曲を自身のアルバムに収録していた、というエピソード。自分の一生を曲にぶつけることで、自分自身、そして大切な人たちとまっすぐに向き合う里香と大きく重なります。

また、本作で映画デビューを果たしたflumpoolのボーカル 山村隆太さんと、ヒロインの里香役を演じた松下奈緒さんによる主題歌「いきづく feat. Nao Matsushita」(作詞:山村隆太 作曲:阪井一生 編曲:トオミヨウ (A-Sketch) )にも注目。映画の中では想いを交わすシーンの少ない2人が、本楽曲を通して“声”を重ね合い、主題歌を超えて“映画の大切な一部”となります。切ない三角関係や心の距離が見事に表現された心温まるバラードです。

文/ Maika (Webサイト『映画とわたし』)

『風の奏の君へ』作品詳細

2024年 6月7日(金)より
大阪ステーションシティシネマ/イオンシネマ シアタス心斎橋
MOVIX京都/kino cinéma 神戸国際 ほか全国ロードショー

監督・脚本:大谷健太郎
出演: 松下奈緒、杉野遥亮、山村隆太(flumpool)、池上季実子
原案: あさのあつこ「透き通った風が吹いて」 (文春文庫)

劇中曲:松下奈緒「小さな奇跡 〜Un petit miracle〜」「風の奏の君へ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
主題歌: flumpool「いきづく feat. Nao Matsushita」作詞 山村隆太 作曲 阪井一生 (A-Sketch)
配給:イオンエンターテイメント
2024 年/カラー/日本/上映時間:98分/5.1ch

©2024「⾵の奏の君へ」製作委員会

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この記事を書いた人

【取材、撮影、記事作成など、Webサイト『映画とわたし』に関わる全てのことを担当】

兵庫県神戸市出身、関西大学卒業。大学在学中にシンガーとして音楽活動を開始。CDリリースや数々のアーティストのバックコーラスを経て、ディズニー映画『美女と野獣』の日本語版デュエットソングDAMガイドボーカル(第一興商)を務める。卒業後は、関西のマスメディアで業務に携わり、2019年には神戸のラジオブースでパーソナリティとして活動。
2022年には、阪神百貨店で開催されたバレンタイン催事のイメージソング『Strawberry』を制作。Webメディア『映画とわたし』の運営を中心に、記事掲載や写真・動画撮影、音楽を通してモノやコトの魅力を発信中。