映画『異人たち』が 2024年4月19日(金) に劇場公開されます。本作は、日本を代表する名脚本家・山田太一氏の長編小説「異人たちとの夏」にインスピレーションを得て、「荒野にて」「さざなみ」のアンドリュー・ヘイ監督が映画化したもの。1988年に日本でも映画化(※1)された愛と喪失の物語を、現代イギリスへと舞台を移して、ヘイ監督ならではの感性あふれる脚色と演出で描き出します。
公開に先立ち、『異人たち』(2D 字幕版上映) の試写会が開催されました。本記事では、本作の見どころ、また夢幻的な映画体験に誘う作品の魅力に迫ります。
(※1)『異人たちとの夏』(1988年)原作:山田太一 監督:大林宣彦 脚色:市川森一 配給:松竹
■STORY■
ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは、ある夜、 同じマンションの6階に住む謎めいた青年ハリーとめぐり会う。 そして幼少期を過ごした郊外の家を久しぶりに訪ねると、そこには30年前にこの世を去ったはずの父と母が当時のままの姿で住んでいた。 両親との心満たされるひとときに浸ったアダムは、 その後も実家に足繁く通う一方、自分と同じように孤独の影をまとうハリーとの情熱的な恋に落ちていく。しかし、その夢のような愛おしい日々は永遠には続かなかった…。
現代的でパーソナルな脚色を加えた、愛と喪失の物語
「男たちの旅路」「ふぞろいの林檎たち」など数々の名作ドラマを手がけ、昨年惜しくも逝去された名脚本家、山田太一氏。1987年に発表した「異人たちとの夏」は、第1回山本周五郎賞を受賞。とある男とこの世を去った異界の人々との“ひと夏の出来事”を美しく幻想的に描き、2003年には英訳され海外でも刊行されました。
山田氏が創作した物語に魅了されたアンドリュー・ヘイ監督は、自らのプライベートな要素を織り交ぜて脚色を施しました。再映画化にあたり、特に主人公のセクシュアリティを変更するという構想は大きな課題でもありましたが、脚本を読んだ石坂拓郎氏(山田太一氏長男、撮影監督)をはじめ山田氏のご家族は、 ヘイ監督の想いを尊重。監督自身の経験だけでなく、人間同士の感情が浮き彫りになった《パーソナルな感覚》を持つ脚本に心惹かれたと振り返ります。
本作は、ヘイ監督の卓越した脚色をより一層際立たせる《映像の美しさ》も見どころの一つ。都会のスタイリッシュなタワーマンションと、郊外のノスタルジックな温もりを感じさせる実家という二つの場所を対比させることで、それぞれの“色”を明確にしています。実家のシーンの一部は、ヘイ監督が実際に子供時代を過ごした家で撮影されており、よりリアルで繊細な描写を実現。また、場面の至るところにはロマンチックな光が煌めき、まるで眠りに落ちる直前や夢から覚めた瞬間のような“ぼんやり”とした感覚を、見事に映像化しています。
【音楽の話】フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド「パワー・オブ・ラヴ」
本作では、1980年代のヒットナンバーが映画の情感を高めていますが、なかでもフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「パワー・オブ・ラヴ」は、ヘイ監督の楽曲へのこだわりと憧れを強く感じます。哀愁漂うメロディーとパワフルな歌声は、本作の主人公と深い繋がりを持つ、さらには時空を結びつける重要な役割を果たしています。特に、「パワー・オブ・ラヴ」のミュージックビデオの冒頭を彷彿とさせる演出には、鳥肌が止まりません。
音楽には、当時の記憶と郷愁を呼び覚ます不思議な力があります。ヘイ監督の青春時代を彩った名曲は、時を経て、自身の監督作品の重要な楽曲として登場するー。愛と孤独、喪失と再生、家族の絆といった本作のテーマとともに、劇場を包み込む音楽からも観客をエモーショナルな映画体験に誘います。
文/ Maika (Webサイト『映画とわたし』)
『異人たち』作品詳細
4月19日(金)
劇場公開
監督: アンドリュー・ヘイ『WEEKEND ウィークエンド』『さざなみ』『荒野にて』
出演: アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ
原作:「異人たちとの夏」山田太一著(新潮文庫刊)
2023年/イギリス
原題: ALL OF US STRANGERS
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
【R15+】
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