2025年日本国際博覧会 (大阪・関西万博) における未来社会ショーケース事業および催事企画コンテンツの一つとして、2025年4月13日 (日) 〜 10月13日 (月) の会期中、サントリーホールディングス株式会社とダイキン工業株式会社が2社共同で出展する水上ショー「アオと夜の虹のパレード」が開催されます。本ショーは、水、空気、光、炎、映像、そして音楽を駆使して、「生命(いのち)」の物語を壮大なスケールで描くスペクタクルショー。万博を象徴するエリア「ウォータープラザ」で、万博会期中毎日、日没後に開催されます。
さらに、日中には音楽と噴水で魅せるショー「水と空気のシンフォニー」、動きに合わせて水が吹き上がる不思議体験「水と空気のマジカルダンス」(※1) 、AR(拡張現実)技術を用いて万博会場内のさまざまな場所で生きものたちがパレードする様子を見ることができるデジタルコンテンツ「水と空気のARパレード」を実施。夜のショーと連動した、インタラクティブなエンターテインメントが楽しめます。
今回は、ショーのクリエーティブ・ディレクターを務める田中直基さんに単独インタビューを行い、「アオと夜の虹のパレード」に込めた想いや、その魅力を語っていただきました。
動きと物語性を持つ、日本ならではの水上ショーを届けたい。
── 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)会場内の「ウォータープラザ」で実施されるエンターテインメントは、日中のコンテンツもすごいと聞きました!見どころを教えてください。
2025年4月7日(月)に、昼の演出「水と空気のマジカルダンス」が「最大のインタラクティブな噴水設備」(※2)として、ギネス世界記録™に認定されました。僕は、小学生のころに風邪をひいて学校を休むと古いディズニー映画を見て過ごしたのですが、その中でも『ファンタジア』が大好きで、いつか作品に登場する水のシーンを実現したいと思っていて。この演出では、身体を動かすと、それに応じて約300基の噴水が生きもののように動くんです。万博史上最大級とも言われていますが、“規模感”が一つの見どころだと思います。
── 夜には、水上ショー「アオと夜の虹のパレード」が開催されますが、舞台の中心にあるモニュメント「ウォーターカスケード」を実際に見ると、すごく迫力がありますね!
「ウォーターカスケード」は、高さ18m、ビルで例えると6階建てくらいの高さから水を落としてつくるスクリーンです。あとは、両サイドにもかなり大きな「ウォータースクリーン」が出てきます。さらに、20m上くらいまでにも水が上がって、夜にはそこに映像やレーザーを投影します。
── まさに、日本ではなかなか体験することのできない“規模感”の水上ショーだと思います。
僕がこの仕事を依頼されたのは 3年半ほど前ですが、この“規模感”の噴水ショーは日本での事例もほとんどないので、まずはディズニーや、今回一緒にやっているフランスのECA2のショー、ドバイなど世界中いろんな場所に見に行きました。海外の噴水ショーは、とにかくサイズを競うんですよね。凄いなと思いつつ、ただ一方でそこに“物語性”を加えたり、舞台装置の表現方法を工夫したりするとさらに面白いんじゃないかなと思ったんです。サイズだけで勝負するとなると、他国と比べられるだけになってしまうと思って。シンプルに、一直線に上がる噴水を約300基敷き詰めることで、呼吸したときのお腹の膨らみや、風の動き、さまざまな生きものの動きを表現しています。昔から伝わる日本の妖怪や、アニミズムなど、そこに無いものを想像する楽しさというか。余白みたいなものをふんだんに取り入れてみようと思いました。

「水」と「空気」、そして「夜の虹」から着想を得た物語。
── 「水」と「空気」が、ショーのテーマとなった理由を教えてください。
今回、サントリーホールディングス(株)とダイキン工業(株)の共同出展ということで、それぞれと関係の深い「水」と「空気」を起点にしたいと思いました。約35億年前、この地球で「生命(いのち)」を最初に生み出したのは「水」と「空気」であるということ。そしてそれらは、ずっと循環しているんですよね。「水」と「空気」を擬人化したときに、どの生きものよりも地球にずっといる大先輩なんじゃないかと、ロマンチックな想像をしたときがあったんです。
── 「アオと夜の虹のパレード」の“物語”の見どころは何でしょうか。
このショーの物語は、「水」と「空気」が、地球の歴史を何十億年もみてきた“記憶”がテーマとなっています。昔住んでいた生きものたちもたくさん出てきますし、火山だったり、隕石だったり、自然災害のような描写もあります。恐竜も一度絶滅したけど、「生命(いのち)」はそこで途切れずに今につながってリレーしてきている。そういうことをなるべく難しくなく、楽しく、幅広い世代にわかるように描いた部分が見どころの一つですね。
── タイトルにある「夜の虹」とは何か、詳しくお聞きしたいです。
ある時に、たまたま《石垣島で数年ぶりに「夜の虹」が出た》という記事を見て、面白いなと。「夜の虹」は、空気中の水分がすごく豊かで、空気が澄んでいることによって 月の光が大気中の水滴で屈折してできる現象だと聞いて、「水」と「空気」の一番良い状態に近いなと思ったんです。ショーでは、「夜の虹」が見れる奇跡の夜に「水」と「空気」の記憶があふれ出して、動物も、虫も、植物も、いろんな生きものたちが祝祭をあげるという物語にしました。


ショーに登場する魅力的なキャラクターたちと、豪華声優陣。
── ショーに登場するキャラクター「アオ」の誕生秘話を教えてください。
このショーは、子どもから大人まで幅広い世代に向けたショーです。ただ、1970年の大阪万博のことを当時10歳くらいだった子どもたちがずっと覚えていて、大人になった今も目を輝かせながら思い出していたりとか。そういうものにはなりたいなと思ったので、子どもたちが自分を投影できるような話にもしたかったんです。なので、「アオ」は10歳です。名前は、みんなが覚えやすいように「水」と「空気」に共通するイメージカラーの“青”からとりました。「アオ」を演じる毛利花さんは、オーディションをして演技も歌も本当に素晴らしくて、すぐにキャスティングが決定しました。
── 同じく、ショーに登場するキャラクター「ドードー」の誕生秘話を教えてください。
「水」と「空気」の物語というのは、一見難しい話にも聞こえるので、どこか抜け感がほしいと思っていて。このショーで一番ひょうきんでユニーク、笑える役にしたいと思い誕生したのが「ドードー」です。最初から関西弁にしようと思っていたわけじゃないんですけど、僕は昔から友近さんのおっさんネタが結構好きで。(笑)「ドードー」がかわいいおっちゃんみたいなコテコテの関西弁を喋るキャラだったら良いなと思い、友近さんに相談したら快諾してくださいました。
── さらに「アオ」のおばあちゃん役は、夏木マリさんが演じられます。
夏木さんは、演技も人柄も素晴らしい方ですよね。ちょうど僕がロンドンで仕事をしているときに、舞台『千と千尋の神隠し』を見させていただいて。このショーのことをお話したら、すごく喜んでくださいました。今、僕の中でこのショーをキラキラと輝かせてくれるキャスティングは、女性3名だったんです。前回の大阪万博では表現されていなかった《女性の持つ強さ》のようなものも、このショーで表現できていると思います。

現代人にこそリアルに響く、スペクタクルショーを。
── 大阪・関西万博の会場内で開催されるエンターテインメントならではの魅力とは何でしょうか。
スペクタクルショーの“スペクタクル”とは、昔の人が虹や雷など自分の想像を圧倒的に超えるものに出会ったときに使っていた形容詞だと聞きました。このショーも、目の前でリアルに見た時に圧倒的に心が動いて、それまでの価値観を根底から覆されるようなものにしたかったんです。現在はインターネットの普及によって、その場で同じものを感じて、悩んで、話し合ってという機会が少なくなっているじゃないですか。万博の仕事に携わっているなかで、現地に来ていろんな人と喋ったりしていると、人と人がリアルに同じ空間にいることってめちゃくちゃ大事だなと思ったんですよね。
── いよいよ開幕する大阪・関西万博。世界中からショーへの注目が集まっています!
今回僕らが手掛ける水上ショーは、お祭りの真ん中にある“ヤグラ”みたいなものになったら良いなと思っていて。皆んなが寄ってきて、音楽とともに感動して。映像では決して伝わらない、リアルならではの良さが必ずありますので、ぜひ多くの方に足を運んでいただきたいです。
(※1)「水と空気のシンフォニー」終了後約20分間、不定期に実施。詳細は、公式サイトをご確認ください。
(※2)インタラクティブな噴水装置:観客が遠隔操作で物理的な表示を変化させることができる人工的で装飾的な噴水施設
正式記録名(英語):Largest interactive fountain feature
取材・撮影・文/ Maika (Webサイト『映画とわたし』)


田中 直基
2025大阪・関西万博 水と空気のスペクタクルショー
「アオと夜の虹のパレード」クリエーティブ・ディレクター
言葉、映像、デザイン、テクノロジーなど、課題に適した手段でニュートラルに企画し、国内外で活動するクリエーティブ・ディレクター。TOKYO2020パラリンピック開会式の「PARAde of Atheletes」や、ALSのクリエイターと共に新しいコミュニケーションツールを開発する「All Players Welcome」などボーダレスで力強い表現とメッセージを発信し続けている。日本人初となるTHEAカタリスト・アワード受賞をはじめ、国内外で受賞多数。